母が亡くなって、鹿児島に行ってきました。

ここ屋久島に移住してから、私が島を出たのは都合4回です。

1回目は2019年の11月、認知症が進んで介護が難しくなった母を受け入れてもらえる老人ホームを下見するためでした。母は昼夜の区別ができなくなり、夜中の2時ころに起きだして「学校に行かなくちゃ」と騒ぐようになりました。真っ暗なことを示して、夜中だからというと納得して寝るのですが、5分と経たないうちにまた「学校に行かなくちゃ」と起き上がり、これが1時間から2時間続くようになったのです。限界だと思いました。屋久島の老人ホームは、待ちの順番が日を追って増えていくありさまで、同居の介護者がいる場合、その介護者つまり私が斃れないかぎり、入ることはできないようでした。鹿児島に行って、ネットで探したシルバーパーク芳草園を見学して、即決しました。

2回目は、12月、母を連れて芳草園に預けに行った時です。この時は、せっかく海を渡ってきたのだから、少し鹿児島市内を観光しようかと思ったのですが、体調がすぐれず、すぐに帰路につきました。どうせまたすぐに来ると思ったのです。しかし、このすぐは巡ってきませんでした。1月と3月に弟が面会に行って、レンタカーを借りて、母を楽しませてくれました。さて次は私だと思っていたら、コロナの感染防止のために面会はお断りになってしまいました。有料の老人ホームでコロナのクラスターが発生したら、死活問題です。致し方ないと思いました。あれから2年と5か月、コロナは収束することなく、面会謝絶は解けることがありませんでした。

弟が面会に行った20年の3月ころは、かろうじて意思の疎通ができていたのですが、それ以後は呼びかけに反応しなくなっていました。周りで人が動けば、目は動きを追うけれど、それだけの状態が2年続きました。それでも食事は口から取ることができていたのです。

3回目は、12日前の8月7日、芳草園から電話があり、「母の呼吸が一時止まり、危篤です。すぐに来てください。」ということで、駆け付けたら、「取りあえず容態は安定し、すぐに変わる可能性は少ない」ということだったので、いったん引き上げてきました。

そして 4回目、15日の夕方、母の呼吸の様子が変わったという電話がありました。「すぐにどうこうということはなさそうなので、明日(16日)、お医者さんに来てもらいます。」ということだったので、お医者さんの診断を待って、行くかどうかを決めようと準備をして待っていましたが、電話はなかなか掛からず、最終便が迫ってきたので、車に荷物を載せて、宮之浦に向かいましたが、安房付近で電話がかかりました。お医者さんの診断は「今日、明日どうこうということはない。」ということで、ほっとして家に引き返しました。ところが、その日の7時過ぎに、また芳草園から電話がかかってきました。「息をしていません。」と言われて、一瞬、意味が分からず、「死んだということですか。」と聞いてしまいました。

最終便は出てしまった後で、私は行けないので、弟が急遽、鹿児島に向かいました。3回目に行ったときに、芳草園のケアマネに「葬儀屋さんを予約しておいた方がいいです。」と言われていたので、その葬儀屋さんに弟から連絡してもらいました。私がついた17日の昼には、母はすでに斎場の安置所に移されており、私は棺桶のなかの母と対面することになりました。最後に見たときと同じように顔色も良く、眠っているように見えました。

当然、数日は家を空けることになるだろうと、Iさんを中心に留守番の体制を組んでもらっていましたが、斎場についてみると「明日(18日)午前中に火葬場の予約が取れました。」ということで、18日の昼には母は小さな骨壺に収まっていました。

アルツハイマー型認知症を発症してすでに12年と半年、よく持ったと思います。アルツハイマーと診断したお医者さんは「この歳(79歳)で発症するとあと5,6年です。」と言っていました。診断を聞いたとき「85歳かあ、丈夫だったから90歳は絶対に行くと思っていたのに。」でも、行きました、享年91歳。83歳までは海外旅行を楽しみ、それが無理になってからも藤野周辺の山歩きを楽しんでいました。6年前に屋久島に来る頃には、認知が進んで、ついに屋久島に来たことはわからず仕舞いになってしまいました。来たばかりのころは、山歩きは無理でも、舗装路は普通に歩けて、よく遠くまで歩いて行ってしまっていました。「藤野はこっちだよねえ。」

母は藤野(神奈川県相模原市)が好きでした。生まれたのは東京神田。結婚してからは東京本所でしたが、結婚生活は不幸で、認知が進んでからは、私が生まれ育った本所は全く覚えていないようでした。母が覚えていたのは生まれ育った神田淡路町と経営していた雀荘があった神田鍛冶町。雀荘引退後、私と移り住んだ藤野でした。ごめんね。藤野に連れて帰ってあげられなくて。

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